The future of the universe

宇宙の行方〜THE FUTURE OF THE UNIVERSE〜

by Jean Paul Fabre (CERN),真藤 忠春 (NHK,元 名古屋大学)

English, Dutch, and Swedish. French, German, and Italian versions in preparation.

adapted for WWW by J. Konijn and K. Huyser (NIKHEF)

日本語版製作 大林 由尚 (名古屋大学)


 われわれの住んでいるこの宇宙は約150億年前、”ビッグバン”から始まりました。

 それ以来、宇宙は膨張し続け、 夜空にみえる多くの銀河はしだいにその距離を増しています。

 それでは、宇宙はこの先ずっと、膨張を続けてゆくのでしょうか? それは、ビッグバンに対抗するただひとつの力、重力の強さによります。 そして重力の強さは、宇宙の密度によって決まります。

 もし、宇宙の密度が十分に大きければ、宇宙の膨張はある点で重力に負け、 ”ビッグクランチ”と呼ばれる収縮に転じて終りを迎えます。 一方、もし密度が低い場合、宇宙は永遠に膨張を続けるでしょう。

        ...あるいは、自然は偶然その中間を選んでいるかもしれません...


 世界中の科学者たちが星々や多くの銀河を観察して宇宙の密度を求めようとしています。

 夜空を観測した結果として、宇宙を形成するもののうち目に見える(光っている)ものだけでは宇宙は大変密度が低く、宇宙の膨張を止めるのには足りないことがわかっています。

 しかし、この結論は天文学の観測から導かれたものです。宇宙空間には、これらの地球から見えるものの他に、ダークマター(暗黒物質)とよばれる物質が存在する事がわかっています。ダークマターは、宇宙の膨張を止められるほど大量にあるのでしょうか?  宇宙空間には、”ニュートリノ”とよばれる目に見えない素粒子が大量に存在する事が知られています。ニュートリノはビッグバンによって作られ、いまでも宇宙空間を自由に飛び回っています。

 ニュートリノはその数が非常に多いため、たとえ一つ一つの質量が非常に小さかったとしても宇宙の密度に非常に大きな影響を与え、その質量がどれだけであるかによって宇宙の未来にも影響を及ぼします。

 ニュートリノに質量があることがわかると、さらに、素粒子物理学や”大統一理論”に大きな進歩をもたらします。つまり、ニュートリノの質量をを求める事は無限大の世界(宇宙)から無限小の世界(素粒子)までを理解するために非常に重要なのです。

 現在までの素粒子実験では、ニュートリノに質量があるのかないのかさえわかっていません。

 ニュートリノには性質の違った3つの種類(e,μ,τ)があることがわかっています。もし、ニュートリノが質量を持っている場合には3種類の間である種のニュートリノが別の種類に変化してしまう、ニュートリノ振動とよばれる現象が起こるはずです。このニュートリノ振動を見つけ出す事で、ニュートリノの質量を間接的に求める事ができます。

 CHORUS実験ではCERN SPSで作った純粋なμニュートリノ(νμ)のビームを我々の検出器に照射します。もし、ニュートリノが質量を持ち、ニュートリノ振動を起こすと、μニュートリノが検出器に届く前に一部がτニュートリノ(ντ)に変化します。我々の検出器はこの2種のニュートリノを区別するのに非常に高い性能を持っているので、ニュートリノ振動を確実に検出する事ができます。CHORUS実験でニュートリノ振動の積極的な証拠が検出された場合、τニュートリノの質量を推定する事ができます。このことは偉大な発見となり素粒子物理、天文学、宇宙物理に大きなインパクトを与えることになるでしょう。



エマルションターゲットとファイバートラッカー

エマルションの総重量: 約800 kg

シンチレーションファイバーの総延長: 約1720 km

  1. エマルションターゲット

     エマルション(原子核乾版)は写真乾版を素粒子実験用に改良した物で、粒子の飛跡を1μmの精度で検出する事ができます。我々の実験ではエマルション中の原子核とτニュートリノが衝突して発生するτレプトンの反応を探し出します。τレプトンは発生後約100μm走った後に他の粒子に崩壊します。このような短い飛跡はエマルションを使ってしか検出できません。この崩壊の様子をエマルション中で幾何学的に解析する事でμニュートリノとτニュートリノの反応を区別できます。ニュートリノビームを2年間照射した後、エマルションを取り出して現像します。ニュートリノ反応を見つけ出すためにはファイバートラッカーによる予測位置を元にコンピューター制御の顕微鏡ステージを用いて全自動解析を行います。

  2. ファイバートラッカー

     シンチレーターのファイバーを束ねて平面状にした物で、荷電粒子がこれを通過した際に放出される光をファイバーの一端で検出する事で粒子の通過位置を求め、複数のファイバートラッカーからの情報をつなげ合わせて粒子がエマルションから飛び出した位置を計算します。

  3. イメージインテンシファイアー

     ファイバートラッカーからの光は非常に弱いため、これを検出するためにイメージインテンシファイアーを用います。イメージインテンシファイアーは画像情報を保ったまま非常に弱い光を増幅する事のできる装置です。


マグネティックスペクトロメーター

 マグネティックスペクトロメーターを用いて荷電粒子の運動量と電荷を測定します。この検出器は3箇所のトラッカーと大きな空芯電磁石で構成されています。

  1. ヘキサゴナル(6角形)マグネット

     ヘキサゴナルマグネットは薄いアルミ板を螺旋状に巻いた空芯のパルス式電磁石で、6角形の外辺に平行な一様な磁場を作り出します。この磁場の中で荷電粒子は曲げられ、その曲率は粒子の運動量に反比例します。

  2. トラッカー

     ヘキサゴナルマグネットの前面と背面に合わせて3層のファイバートラッカーが配置されており、これらとターゲットトラッカーの最下流の層との情報を組み合わせて通過する粒子の曲率を正確に測る事ができるような構成になっています。

     磁場の強さと粒子の曲率の情報を総合して低いエネルギーの荷電粒子の運動量を計算します。


カロリーメーター

 粒子のエネルギーと位置を測定するための装置です。カロリーメーターは鉛とシンチレーティングファイバーから構成されています。この装置に入射した粒子は鉛の原子核と衝突して2次粒子を生成し、2次粒子がさらに3次粒子を作って、というように何度も衝突を繰り返します。(この現象をシャワーと呼びます。)これらの粒子は鉛とファイバーの原子にエネルギーを与えて止まります。ファイバーは与えられたエネルギーをシンチレーターで光に変換します。

 シンチレーターから放出される光の量は入射した粒子のエネルギーに比例するので、でて来る光の量を測定することで入射した粒子のエネルギーを測定できます。

 さらに、光ったファイバーの位置から粒子の位置を測定します。


ミューオンスペクトロメーター

 ミューオンスペクトロメーターはカロリーメーターの後方に置かれています。ミューオンだけはカロリーメーターで止められずに通り抜けて来るので、その運動量をこのスペクトロメーターで測定します。 ミューオンはτレプトンが崩壊した時にできる粒子の一つで、CHORUSではおもにミューオンを手がかりにしてτニュートリノの反応を捜し出します。

 ミューオンスペクトロメーターは6層のマグネットモジュールと7層のドリフトチェンバーとストリーマーのトラッキングセクションとが交互に重なった構成になっています。

  1. マグネットモジュール

     渦巻型の磁場を作る大きくて強力な磁石です。この磁場の中を通ったミューオンの軌道は磁場によって曲げられます。

  2. ストリーマーチューブとドリフトチェンバー

     ミューオンが通過した時に各部から得られる信号を測定してミューオンの軌道の曲率を求めます。これによってミューオンの運動量と電荷をもとめられます。